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分析
内藤尚志 2025年1月11日 6:44 JST
S&P500種株価指数は年初来の上げを消し、昨年12月18日以来の大幅安となった。同日は連邦公開市場委員会(FOMC)の予測で2025年の利下げ回数が半減し、市場に動揺が走った。
ナスダック100指数は1.6%下落。ハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」に連動する指数は1.2%安。小型株で構成するラッセル2000指数は2.2%下落し、直近高値からの下げ幅は約10%となった。シカゴ・オプション取引所(Cboe)のボラティリティー指数(VIX)は、一時20を超えた。スワップ市場が織り込む年内の米利下げは合計30ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)未満となっている。
昨年12月の米雇用統計では、雇用者数が3月以来の大幅増加となり、失業率は予想外に前月から低下した。米消費者の長期インフレ期待は2008年以来の水準に上昇した。
プレミア・ミトン・インベスターズのニール・ビレル氏は、静かな年初への期待は今や完全に消えてしまったと指摘。
「景気が強いという意味では朗報だが、利下げを期待する向きには悪いニュースだ。インフレはFOMCの最重要課題にとどまるだろう」とし、「債券利回りの上昇は続くとみられる。株式にとっては悪いニュースだ」と話した。
ボルビン・ウェルス・マネジメント・グループのジーナ・ボルビン氏は、「投資家は一段のボラティリティーに身構えていた方がよさそうだ。市場では、利下げ回数が減少する方向に見通しの修正が進んでいる」と述べた。
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一部の米大手銀行のエコノミストは、FOMCによる追加利下げの予想を後退させた。雇用統計が予想より強い内容となったことを受けて予想を修正した。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)は2025年の利下げをもはや見込んでおらず、次の動きは利上げになるリスクがあると分析。従来は年内に0.25ポイントの利下げが2回あると予想していた。シティグループは、5回の0.25ポイント利下げをなお見込んでいるが、開始時期の予想を従来の1月から5月に変更。ゴールドマン・サックス・グループは、年内の利下げ予想を2回とし、従来の3回から減らした。
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国債
米国債は下落。30年債利回りは2023年11月以降で初めて5%台を付けた。10年債利回りも23年以来の高水準となった。
長引くインフレや財政赤字拡大の見通しを巡る不安が高まる中、債券は世界的にここ最近、大きく売られていた。米国ではトランプ次期大統領の就任を控えている。
TSロンバードの米国担当チーフエコノミスト、スティーブン・ブリッツ氏は「12月雇用統計の発表後も、市場がなぜ2025年と26年の金利引き下げをまだ予測しているのかというのが唯一の謎だ」と指摘。「次期政権は、インフレ率を低下させるという名目で活動を鈍化させる義務は負わない。FOMCもずっと以前から、同じことを示唆してきた」と話した。
高い借り入れコストや根強いインフレ、政治的な不透明感にもかかわらず、労働市場が昨年も持ちこたえたことを今回の統計は示した。2024年は労働需要が鈍化し、失業率は上昇したものの、雇用者数は通年で220万人増加した。伸びは23年の300万人を下回ったものの、19年の200万人を上回った。
米消費者の長期インフレ期待は2008年以来の水準に上昇した。トランプ次期大統領が掲げる関税導入への懸念が背景にある。ミシガン大が発表した1月の調査から分かった。
短期のインフレ期待も上昇。その結果、消費者信頼感は低下した。
クリントン元米大統領の政治顧問だったジェームズ・カービル(80)氏は「生まれ変わるなら債券市場になりたい。債券市場は人々を恐れさせるからだ」と語ったことがあった。
米国債市場は再び人々を恐れさせており、政治家も他の皆と同様に恐れるべきだ。
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