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内藤尚志 2025年1月9日 11:41 JST
クリントン元米大統領の政治顧問だったジェームズ・カービル(80)氏は「生まれ変わるなら債券市場になりたい。債券市場は人々を恐れさせるからだ」と語ったことがあった。
米国債市場は再び人々を恐れさせており、政治家も他の皆と同様に恐れるべきだ。
今回の米国債急落は複雑で不吉なものだ。
また、米国に限ったことでもない。欧州の債券利回りも2023年後半に付けた高水準を試している。主要中央銀行が政策金利を引き下げたことで、23年の水準がピークになるとの確信があったが、それが今揺るぎ始めている。
売りの主な対象である期間が長めの債券の動きは、中銀の行動への短期的な期待以外のものにも依存している。
2年物と10年物の米国債利回りの差は過去2年6カ月で最も大きくなっている。長く続いた逆イールドの後、イールドカーブはここ数週間で急速にスティープ化した。ただ、歴史的な標準から見ればまだ特に急ではない。
米連邦準備制度を非難したくなるのは自然なことで、当局が50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の「ジャンボ」利下げで緩和を開始した昨年9月から今までの間に、市場の期待が大きく変化したのは事実だ。
当時の予想では、今年の半ばまでに金利は3%を大きく下回るだろうと考えられていた。今では4%まで下がるかどうかさえ、微妙なところだとみられている。フェデラルファンド(FF)金利先物は、今後6カ月の間に少なくとも1回の利下げがあることをもはや確実視していない。
他の条件が同じであれば、このような期待の変化は利回りを上昇させる。しかし、当局が昨年9月に利下げを開始した後の反応としては異例だ。下のチャートが示すように、いったん利下げサイクルが始まると長期債利回りがこのように反発することは通常ない。
インフレは債券から得られる将来の収入の価値を損なうため、論理的にはインフレ懸念は利回りを上昇させる。しかし、固定利付債とインフレ連動債の利回りの差が示すインフレ期待は、ここ最近上昇しているとはいえ、大局的に見れば極めて安定している。債券市場はインフレについてまだ安心していることが示唆される。
債券利回り上昇が米金融政策とインフレに対する期待の単純な再調整でないなら、なぜ起こったのだろうか。
答えを知るにはタームプレミアムを見るのが最善だ。タームプレミアムは、投資家が長期債保有のリスク、つまり保有期間中に金利が変化するリスクを負う代償として求める上乗せ利回りだ。
このコンセプトは、金融政策に直接起因しない利回りの上昇や低下を説明する。興味深いことに、タームプレミアムがマイナスであった時期が長く続いた後、現在では過去10年で最高となっている。
10日の米株式相場は下落。雇用統計が強い内容となり、年内の利下げ観測が後退した。米国債利回りは上昇した。
S&P500種株価指数は年初来の上げを消し、昨年12月18日以来の大幅安となった。同日は連邦公開市場委員会(FOMC)の予測で2025年の利下げ回数が半減し、市場に動揺が走った。
高い借り入れコストや根強いインフレ、政治的な不透明感にもかかわらず、労働市場が昨年も持ちこたえたことを今回の統計は示した。2024年は労働需要が鈍化し、失業率は上昇したものの、雇用者数は通年で220万人増加した。伸びは23年の300万人を下回ったものの、19年の200万人を上回った。
米消費者の長期インフレ期待は2008年以来の水準に上昇した。トランプ次期大統領が掲げる関税導入への懸念が背景にある。ミシガン大が発表した1月の調査から分かった。
短期のインフレ期待も上昇。その結果、消費者信頼感は低下した。
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